八千穂漁業直売所の店長・飯島さんの「魚を見る眼鏡」を借りてみた!

2026.10.06あさりゆうみ

八千穂漁業直売所の店長・飯島さんの「魚を見る眼鏡」を借りてみた!

佐久穂町にある「八千穂漁業直売所」の評判は、前々から耳にしていた。なんでも、深夜に自ら車を走らせて千葉の市場へ向かい、競り落としたばかりの魚を持ち帰って、そのまま店頭に並べているのだという。海から遠く離れたこの町に、まさかそんな魚屋があるなんて…。

一方で、私はといえば、これまで魚屋にまったく馴染みのない人生を送ってきた。魚を買うのは決まってスーパーだし、手に取るのはいつも同じ種類の魚の切り身ばかり。

そんな私にとって、八千穂漁業直売所は「気になるけれど、ちょっと敷居の高い存在」だった。けれど、勇気を出して足を踏み入れてみると、そこはむしろ、私のような“魚素人”ほど、行くべき場所だったのだ。

知らない魚について尋ねれば、その特徴やおいしい食べ方を気さくに教えてくれるし、刺身やたたきなど、食べ方に合わせてその場で加工もしてくれる。魚屋さんって、ただ魚を売るだけじゃなく、魚を楽しむ選択肢を広げてくれる存在なんだ! と、この歳になって初めて知った。

“魚素人”の心をほぐしてくれる、頼もしすぎる店内POP

この「魚を楽しむワクワク感」を、もっと多くの人に届けたい。そして何より、私自身がもっと魚のことを知ってみたい───。

そんな思いから、今回は八千穂漁業直売所の店長であり、市場での仕入れから魚の加工・販売までを担う飯島有哉さんに、「魚を見る眼鏡」を借りてみることにした。

飯島さんの眼鏡をかけたとき、いつもの魚選びは、一体どんなふうに変わるだろうか?

プロ直伝!おいしい魚の見分け方

飯島さんは、八千穂漁業歴約10年。2026年1月にオープンした直売所の業務のほか、信州サーモンや大王イワナなどの養殖・加工販売に長年携わり、これまで捌いてきた魚は「何万という数になる」という。さらに個人で魚をテーマにしたYouTubeチャンネル「カサゴまる🐟おさかなチャンネル」を運営し、魚の捌き方を解説する動画などを250本以上公開している。

「趣味の釣りから、養殖、仕入れ、捌き、販売、食べるまで、全部やっている」と語る、まさに生粋の魚好きだ。

いつも元気な「いらっしゃいませ!」で迎えてくれる飯島さん

そんな飯島さんに、まずは普段魚を見るときに一番大事にしていることを尋ねると、返ってきた答えは「鮮度と脂」だった。

鮮度が落ちるにつれて、魚の身はハリや弾力を失い、生臭さも出やすくなる。だからこそ、鮮度は魚本来のおいしさを楽しむ土台になるのだという。

「鮮度を見極めるために見るのは目、エラ、鱗です。目がしっかり澄んで光っているか、エラや鱗にピッとした張りがあるか。そこは魚の種類を問わずチェックします」

そして、もう一つの鍵が「脂」。脂は、旨みやコク、口に入れたときの口溶けを大きく左右する要素。脂が乗った魚は、刺身で食べれば甘みが広がり、加熱すればふっくらジューシーに仕上がる。

「脂の有無を見極めるポイントは、魚全体の厚みとツヤですね。例えば同じ2kgの魚でも、ただ長いのか、厚みがあるかでまったく違う。あとはワックスをかけたような表面のツヤ感があるかどうか。ザラっとしているものは、あまり脂が乗っていないことが多いんです」

飯島さんが市場から仕入れた鮮魚(飯島さん提供)

こうした目利きは、魚市場だけで使う特別な技術ではなく、スーパーでの買い物でもそのまま使えると飯島さんは言う。

魚を選ぶとき、これまでは「なんとなく、おいしそうかどうか」で見ていた。でも、こうして具体的なポイントを知ると、これまで感覚だけで捉えていた「おいしそう」にも、実はちゃんと理由があることに気づく。

丸ごと買えば、魚はもっと楽しめる

とはいえ、私が普段スーパーで買うのは切り身ばかり。切り身になった魚では、目もエラも身体の厚みも見ることができない。飯島さんの目利きを実践するなら、まずは丸ごとの魚を買うところから始める必要がありそうだ。

そこで丸魚を買うメリットについて尋ねると、「丸ごと買ったほうが、絶対お得ですよ!」と即答された。

「切り身は、捌く手間賃がどうしても乗ります。丸ごと買えばその分割安ですし、アラも頭もカマもすべて自分のもの。魚によっては内臓まで味わえますから、一匹を余すことなく楽しむなら、丸ごとのほうが断然お得です」

丸魚を捌く、飯島さんの鮮やかな手つき

例えば、アジを三枚におろして残った中骨は、油で揚げて香ばしい骨せんべいに。カレイなら、白子や卵、モチモチのエンガワまで手に入る。素人が捌くにはちょっとハードルが高いが、あんこうを捌けば、あん肝だって楽しめちゃう。丸ごと一尾だからこそ、味わえる美味しさがあるのだ。

これまで「捌くのが大変そう」と避けていた一尾買い。でも飯島さんの話を聞いていると、切り身しか買わないという選択のほうが、なんだかもったいなく思えてきた…!

ちなみにツルヤなどのスーパーでは、鮮魚売り場の調理カウンターにお願いすれば、丸魚の三枚おろしや腹だしなどを無料でやってくれるところも多い。もちろん、頭や中骨などのアラは持ち帰ることができる。

自分で目利きした丸魚を選び、下処理はプロにお任せする───そんないいとこ取りから始めてみるのも、大いにアリだ。

「新鮮でおいしい」の裏にある手間暇

もう一つ、飯島さんにお会いしたら、ずっと聞いてみたいことがあった。それは、八千穂漁業の仕入れについて。

深夜0時に佐久穂町を出発し、千葉の市場まで往復する───。仕入れにそれほどの労力をかけるのは、一体なぜなのだろう。長野市や松本市にも水産市場はあるし、目利きさえできれば県内の市場でも良い魚を選べそうだが、なぜわざわざ千葉まで足を運ぶのだろうか。

「一番の理由は、品揃えの圧倒的な強さですね」と飯島さんは明かしてくれた。

「日本の中心である豊洲と連携している千葉の市場には、全国のあらゆる魚が集まるんです。内陸である長野の市場は、どうしても他県を経由した二次流通の魚が多くなるため、品揃えや鮮度の面で限界が出てしまうんですよね。

あえて豊洲市場ではなく千葉市場を選ぶのは、価格を抑えるためです。豊洲はいくら高値でも欲しい魚を競り落とすような世界なので、そこに参加するとお客様に安く提供できなくなってしまう。だからこそ、千葉の市場なんです」

かつおのたたきも、店頭でできたてを提供してくれる

もう一つのこだわりは、仲介業者を挟まず、自分たちで買い付けから運搬まで行うことだという。そうすることで、中間コストを極限まで削れるうえ、魚を最短で店頭に並べることができる。

「下手したら、海沿いの魚屋さんよりも早い段階で魚を持ってきているんです。朝5〜6時の遅競りに参加するお店もありますが、僕らの場合、その時間にはもう佐久穂町に帰ってきていますから。

…もちろんハードではありますけどね(笑)」

魚を見極める目。それは、魚屋にとって大切なものに違いない。けれど飯島さんの話を聞いていると、それだけではいい魚を店頭に並べることはできないのだと気づかされる。

どこで誰から仕入れ、どう運ぶのか。私たちが手に取る魚の向こう側には、そんな無数の判断と労力があるんだなあと、はじめて実感した。

取材に伺った日は、たまたま「マグロの日」だった。贅沢!

丸魚、素通りやめました

今回飯島さんの眼鏡を借りてみて、私の中でいちばん大きく変わったのは、丸魚の捉え方かもしれない。

特に心を掴まれたのが、居酒屋で見かけると絶対に頼んでしまうあの骨せんべいが、自分でつくれてしまうんだ! という発見。そう思った瞬間、それまで素通りしていた丸魚が、急に魅力的なものに見えはじめた。

飯島さんのYouTube動画で魚の捌き方を予習してみると、「自分にも、まじで捌けそう」という自信も湧いてきた。家でさらっと魚をおろし、自家製骨せんべいを振る舞える人になる───いま、そんなささやかな野望を温めている。

三枚おろしにして残ったこの部分が、骨せんべいになる

そしてもう一つ起こった変化は、パックされた魚の向こうに「人の気配」を感じられるようになったこと。

海に出る漁師、深夜の高速を走るドライバー、夜明け前の市場で魚を競り落とす人たちまで。普段何気なく手に取っていた魚の向こう側には、たくさんの人の仕事と時間が積み重なっていることを、改めて実感した。

飯島さんから借りた眼鏡は、魚の見方を変えるだけでなく、いつもの買い物の風景の中に潜む「たくさんの人の仕事と時間」まで映し出してくれるものだった。んの人の仕事と時間」まで映し出してくれるものだった。