いくつ知ってる?フェイストゥフェイス巡ってみた
まちなかの、顔と顔がくっついた像。あれがどうも気になる。小海町できっと一度は目にしているはずの、なんの説明もなく突如現れるミステリアスなアート作品のことだ。
初めて見た時から、なんだか心を掴んで離さない。小海町の景色を思い出すと、片隅にはいつだって“彼ら”がいる。誰が、いつ、なんのために作ったものなのだろう?
探ってみると、どうやら小海町高原美術館が関わっている作品だという。その名も、『フェイス トゥ フェイス』。なんと、町内に16ヶ所も置いてあるらしい。
これは全て回るしかない!! というわけで、まず美術館に詳しい話を聞きに行くことにした。
『フェイス トゥ フェイス』とは?

小海町高原美術館ではアーティストが数週間ほどまちに滞在して制作をするアーティストインレジデンスをたびたび行っている。この作品は、その第2回目となった「アート・ラリー:KOUMI」(2017年)の一環でディーン・ラモス氏によって制作されたものだと教えてもらった。
安藤忠雄設計の美術館建築から影響を受けコンクリートを使用した向かい合う人物像は、人との関係の相互作用の多様さを表現している。見る人またはその時の状況によって、ふたつの像の関係について様々な受け取り方ができる。仲良く見えたり、喧嘩しているように見えたり。設置場所もアーティスト自身がまちを歩きながら決めたのだそう。
現在、場所によっては劣化により撤去されてしまったものや、当初と設置場所が変わっているものもある。しかし、それも想定済み。壊れてしまうことや経年変化も含めた作品なのだ。確かに、ピカピカの状態よりも、なんだか深みが増して見える気が……
作品から感じることは人それぞれ。みんなはどんなふうに感じるだろう?早速、フェイス トゥ フェイスを見にいこう!
小海町高原美術館入り口横

フェイス トゥ フェイスをめぐる旅の第1弾は、美術館の入り口横にある作品からスタート! 学芸員の中嶋さんにご案内していただいた。駐車場から見える位置にある2つの像はピッタリとくっついていて質感も似ている。手作りのコンクリート像はひとつとして同じものがないのも注目。ちなみに中は空洞だが、ずしりと重い。首元が細く、とても繊細。
編集部や道ゆく人の感想も、どうぞ参考に。「間に生えた草がいい感じ」「美術館の番人ぽい」
小海町高原美術館芝生

こちらは美術館の後ろに回ったところにある芝生エリアにある作品。普段は危険な箇所もあるので積極的に案内はしていないが、立ち入り可。建築の中に取り込まれるように佇む姿は、存在感はありつつも景観と融合している。展望台からみる八ヶ岳と美術館全貌との眺めもまた素晴らしい。絶景。
「なんだか余白がある」「穏やか」「建築から出てきたみたい」
八峰の湯

美術館となりの『八峰の湯』足湯近くにある作品は、写真スポットである顔出しパネルの後方に。正面からパネルを覗くと2つの顔が見えるのが、ちょっとシュール。設置場所によって芝生のふさふさに個性が表れるのがおもしろい。
「首元が草で覆われていておしゃれ」「ひなたぼっこしてあったかそう」「でもちょっと寂しそう」
レストハウスふるさと

ドライブのオアシス的存在であるレストハウスふるさとに来れば、絶景ベンチの前にある作品を見ることができる。しかし訪れた際には像はひとつだけ、さらに正面向きになっていた。お店の人に伺うと、ここに来た人が動かしてしまうのだそう。壊れてしまった相方は、離れたところでもうひとりを見つめているようだ。
「別れと自立」「涙の数だけ強くなる」「開き直ったたくましさを感じる」「この景色を独り占めしてるみたい」
松原湖(猪名湖)水辺公園

松原湖(猪名湖)、“北風小僧の寒太郎”の音楽が響く水辺公園の木陰にひっそりと佇む作品は、人目をはばかるようにも見えて艶かしさを感じる。隠れているようで向こう岸から丸見えなのも、なんだかリアル。湖面や周りの自然のロケーションが作品の雰囲気を演出している。
「ラブ感ある」「放課後な気がする」「若いね」「木漏れ日がいい感じ」「見てはいけないものを見た気がする」
松原湖(長湖)東屋のある公園

こちらは猪名湖に比べると人があまり訪れない方の松原湖。カッコーの鳴く声があちこちから聞こえ、私たちなどお構いなしの緑の勢いを感じる。東屋近くには、草に埋もれるように作品が。力強い自然とのコラボレーションは、今までとはまた違った野生味溢れる印象だ。
「生き残った人類」「肩と地面が見えない分全身のイメージが見える」「(少し傾いているから)右の人が左の人に依存してそう」「喧嘩した後に仲直りしたみたい」
北牧楽集館

残念ながら、北牧楽集館に置いてあった作品は損壊してしまったため撤去されて今はもうない。つい最近までは庭の池の中に設置されていたという。水の中に佇む姿も見てみたかった気もするが、一足遅かった。無念。
小海町農産物加工直売所

こちらは道路に面したところに作品が設置されている。他のものとは違い、全身が赤く塗られている。アーティスト自身がペイントしたそうだ。国道沿いのため車がひっきりなしに通り、喧騒の中でふたりは向かい合う。真ん中にはのぼりを立てるためのパイプが埋められている。
「気持ちがすれ違っている感じ」「分断されている」「作品から声が聞こえない」「怒って黙っているのかな」
ふれあい橋

以前は橋の通路の真ん中に置かれていたが、現在は端に寄せられて千曲川が見下ろせるポジションに。近くのベンチに腰掛けながら、作品と景色を両方楽しめる。
「下に草がないから地面から出てきたみたい」「また下に帰っていきそう」「体のフォルムがよく見えて、滑らかな曲線が良い」「今まで気づかなかったけど、いい形してる」
小海駅

小海駅はロータリーの真ん中、“小海駅”と書かれたすぐ下にひっそりと隠れるように設置されている。駅を利用する人にも意外と知られていない穴場?スポット。一方で馴染みのある人からは当たり前すぎて、もう景色の一部と化しているという声も。作品は手作業で置かれているため、ふたりの間の“ズレ”もそれぞれ。ここが一番ズレが大きい。
「あんまり周りを気にしていなさそう」「かくれんぼ、優勝!」
小海町役場

町役場の入り口近くの植栽にも、隣の自然岩とお揃いのような雰囲気で作品が置いてある。しかし町役場というオフィシャルな場では、彼らの関係もまた少し異なって見えるのがおもしろい。
「お仕事でやってます感ある」「定時で帰りそう」「全然いやらしさがない」「夜になったら離れてそう」
小海中グラウンド横ちびっこ広場

ちびっこ広場にも作品があると聞いて、一体どこだろう? と疑問が浮かんだ。見た記憶がなかったからだ。現場について探しはじめて数分、「うわー!」と編集部のひとりが叫んだ。そこで私たちが見たのは、無惨に壊れたふたつの像だった。端に寄せられたその姿に、思わず立ち尽くす(この辺りからもはや作品に感情移入し始めていた)。
「かわいそう」「辛い」「一体どこに置かれていたんだろう」「どうぞ安らかに」
小海中学校

アーティストの希望で町の教育機関にも作品が置かれている(学校施設は関係者以外立ち入り禁止なのでご注意)。小海中学校は入り口すぐ近くの植栽の中に設置。作品の概要を知らなくても、「どんな意味なんだろう」「いろんなものに見える」と学校の人たちから気にされている様子。伺った時は用務員さんが学校の整備をしていて、作品周辺も草刈りがきっちりされて整っていた。
「愛があるね」「手をかけてもらってうれしそう」「よかった」
小海小学校

小海小学校にある作品は、設置してすぐに子どもたちの元気な遊びに耐えきれずに壊れてしまい、すぐに作り直した(子どもたちも興味津々だった証拠だ)。強度を上げるために、中は空洞ではなくぎっしりコンクリートが詰まっている。校門横にある桜の木の下にいるふたりはなんだか平和な雰囲気。
「守られている感じ」「どちらかというと子どもを見守っているのかも」「お花見できそう」
小海高校

昼休みになると生徒たちが昼食を食べに来るという中庭。そこに、作品は設置されている。パッと見ではわからない、ベンチの裏。しかし廊下からはよく見えるので、「キスしてるやつでしょ?」と生徒たちからの認知度は高い。賑やかな声の中に佇む作品は、まるで学校の一員のようにも見える。
「仲良さそう」「隠れてるのが良い」「秘密の恋かな」
小海町総合センター

国道沿いの小海町総合センター、青少年育成を呼びかける大きな看板の下に作品は置いてあった。傍らにある二宮金次郎像が、心なしか仲間になりたそうな目をしている。それにしても、看板の内容に対して顔をくっつけ合う2人は、何かを風刺しているようにも思えてくる。
「非行少年たちかな」「社会に対して何かメッセージがありそう」「メンタル強め」
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ARTIST INTERVIEW

Dean Ramos
現代彫刻家 • 現代美術作家
南カリフォルニア在住
小海町へ訪問した際の美術館スタッフの温かいおもてなしと、多様な背景を持つアーティストを迎え入れる地域の人々のオープンな姿勢に、感銘を受けました。緑豊かな夏の風景、山々の景色、温泉と、参加したフィンランドサウナフェスティバル、地元の料理は忘れられない思い出です。
現在の作品の写真を拝見して、当時過ごした楽しい時間や地域の方々・アーティスト・美術館スタッフとの温かい思い出がよみがえりました。駅近くに置かれた作品は地域の日常生活に溶け込み、松原(猪名)湖の作品はそこで感じた静謐な気持ちを思い出させてくれます。自然や環境と融合したそれぞれの作品が、独自の物語を語っているようです。
『フェイス トゥ フェイス』が何年もたった後も展示されているとは思ってもいませんでした。町やコミュニティの一部となり、周囲と関わり続けるのを見るのは大きな喜びです。今も人々が作品を鑑賞し続けていること、設置場所によってそれぞれ異なった見え方や解釈がされること、また作品が時を経て進化・熟成していくことが大変うれしく、励みになります。そしてアートが永続的な影響を与えられるということを、改めて実感しています。
まとめ
小海町高原美術館は、主に現代美術を取り扱っている。それは、目まぐるしく変化する社会の中で生まれた表現が、アーティストと同じ時代を共有している私たちにもリアルに感じられることを大切にしているから。
作品がそこにあり続けるということは、それを見る人に問い続けていること、と学芸員の中嶋さんは話す。2017年に『フェイス トゥ フェイス』が設置されてから8年が経ち、コロナ禍を経て、SNSやAIの発達、果ては戦争など世界をはじめ、地域社会にもさまざまな変化が起こった。
人と人とのつながりとはなんだろう。作品が問いかけることを、私たちはひとつひとつを巡りながらじっと考えた。
素材の経年変化や設置された場所と作品の相互作用も相まって、同じ二つの像なのに全く印象が違って見えたことも、思いがけず不思議な体験だった。
それにしても、まちなかにあるアートってやっぱり良い。肩の力を抜いて、自由に向き合えるのも。
それぞれの作品が語りかけてくる感覚は、写真や言葉だけじゃ伝えきれない。ぜひ自分の目で巡りながら、『フェイス トゥ フェイス』をめいっぱい感じてみてほしい。