ひもとけ建築!『小海町役場』に潜入
町内にはたくさんの気になる建築がある。いつ、建てられたんだろう。なぜ、こういう形なんだろう。なんのための、デザインなんだろう。そんな、ついつい心惹かれる建築に、編集部が潜入取材。
記念すべき初回は『小海町役場』へ。あの温かみのあるレンガの庁舎は、一体どうやって出来上がったのだろうか?
役場(役所)庁舎は、個性が凝縮された作品だ!
そもそも、なぜ役場庁舎を建築として取り上げるのか。
行政サービスを行う場所として、住民ならば一度は足を運び、なんやかやの事務的手続きをする場所。なんならちょっと待たされて、暇だなあと感じることもあるかもしれない。でも、そんな待ち時間こそ、チャンスだ。ぜひ個性豊かな庁舎たちに、目を向けてみてほしい。
役場(役所)庁舎には、自治体のカラーが色濃く出る。というか、その自治体の考えとか、産業とか、自然的条件とか、そういうものを詰め込んだもの、それが役場(役所)庁舎といっても過言ではない。

だから、ぼんやり庁舎を眺めていると、伝わってくるのだ。そのまちの意思が。そう思うと、わくわくしてきませんか。しますよね。
というわけで、まだまだ知られざる魅力を探しに。まずは小海町役場庁舎の歩んできた道を辿ってみよう。
円形ならでは、旧庁舎時代の悩み

旧庁舎は1961年に完成した、建築家・坂本鹿名夫氏が設計した円形庁舎。現在の位置から200メートルほど離れたところに位置していたもので、60年代から70年代にかけて坂本氏によって多くつくられた円形建築のひとつでもあった。
個人的に、円形建築は夢とロマンが詰まった建物。そこはかとなく感じる未来への明るい希望が溢れ出すあのデザインを、正直に言えば、ぜひ小海町にあった時に見てみたかったという気持ちがある。
しかし耐震基準への懸念や老朽化に伴い、建て替えの構想・検討が始まった。日々をそこで過ごす職員の方々にとっては、やはり利便性に欠ける点があったというのも事実だったようだ。
新庁舎建設の責任者だった前副町長の篠原さんは、当時をこう振り返る。
「旧庁舎は円形だから素敵だったけど、丸いからこそ四角い机とかが入れにくかった。あとはガラスが一枚だったから寒くて……国道の音も響くから、仕事に集中できなかったんだよ」
なるほど、丸には丸の、悩みがあるのか。しかしこれらの体験は、のちの新庁舎の方向性を定めていくことになる。
100年建築をめざしたレンガ造りのファサード

新庁舎が完成したのは2002年。特徴的なのは、レンガ造りの温かみのあるファサード(建物の顔!)だ。高原の、さらにはプティリッツァ※が住む町にふさわしい、物語にも出てきそうな風貌でもある。しかし話を伺うと、デザイン面だけでこの建物が出来上がったのではないことがわかってきた。(※小海町のシンボルキャラクターで、森に住む伝説の妖精のこと)

小海町の厳しい冬を快適に過ごすために高断熱・高機密を軸にした構想を進めていく中で、素材をレンガにしたのには大きな意味があるという。
「担当の設計士さんが北海道出身でね。地元の公共施設は寒さ対策としてレンガ造りのものが一般的なのに、なぜこの辺りではやらないのですか?と」
篠原さん曰く、“100年に一度の大事業”と銘打って、100年後にも残る建築をめざした小海町。レンガは費用はかかるが、長い目で見て光熱費などのコストを抑えることができると判断し、設計・監理を行った株式会社NTTファシリティーズの提案を採用することに。こうして、現在の顔の土台が決まったのだ!

また、このレンガはただのレンガではない。北海道の窯で焼成されたものを船便で輸送し、さらには北海道から職人も呼び寄せた。2万個ものレンガをひとつひとつ積み上げるのにかかった期間は、なんと3ヶ月!すごい!!
コンクリート外壁との間に空気層を設けて積み上げられているため、遮音性・断熱性がとても高くて機能的。実際に冬の庁舎内は暖かく過ごしやすく、金曜日に暖房を切っても月曜の朝にもまだ暖かいほど。

土からできたレンガは、ひとつひとつの色の揺らぎや形の個性が出ていて、とても表情豊か。自然素材でしかできない心地よさが、ここに来る人たちを包み込む。コストをかけずにできるものを短期間のみ使うのではなく、自然に由来したものをメンテナンスしながら長く使っていくこと。これらは、現在の価値観にもとてもマッチしている。
なにより、これだけのこだわりが詰まったレンガたち。庁舎の大きな魅力となっていることには、やっぱり理由があるのだと、納得。
物語のあるロビーの古木
木サッシやその他の木を使った設えとともに、レンガは自然由来の柔らかい雰囲気を醸している。ただ、重厚な素材だからこそ生み出せる、シックな風格もまた、個人的には好きなポイントだ。


それが一番感じられるのが、正面入り口左奥にある階段と古木のオブジェのコーナーだ。静謐ながら、物語のある空間に仕上がっている。
この古木は、一体何なのか。壁にあるキャプションによると、町の歴史や文化に深く関わる存在のようだ。

小海町は、森と湖の町。とりわけ象徴的なのが、松原湖や周辺の景観だ。松原湖は、八ヶ岳が水蒸気爆発した際に起きた崩壊とともに、出来上がったとされている。長らくそれが正確にはいつなのかということがわからなかったが、調査中に見つけた当時の木の年輪を調べた結果、887年に爆発が起きたということが証明された。
その、松原湖の成立を裏付けた木。そのひとつが、庁舎ロビーにある古木だ。冷静に考えても、とても価値があるものだし、控えめに言っても博物館に展示されるレベル。逆に言えば、だからこそ、こんなにも存在感があるのかもしれない。
そっと触れると、私たちの時間感覚を超えた、地球の営みをダイレクトに感じられる。見上げれば天窓からは、ずっとこの大地を照らし続けている眩しい太陽の気配。今がいつで、ここがどこなのか、一瞬わからなくなる。
まさか役場でこんな気持ちになるとは。そんな不意打ちに、思わず心が動く。

かわいい切妻屋根とその副産物
さて、印象的なファサードのもう一つの重要な要素は、切妻屋根。ここもまた、デザインとしてだけでなく、機能的な役割を果たしている。平らな屋根は、雪や氷がしみて雨漏りしてしまうリスクが高いため、この形になったのだそう。
また、三角形にすることによって生まれたスペースが、副産物として役に立っている。篠原さんの案内で、この日は特別に職員しか入れないこの屋根裏倉庫(?)に潜入した!


こちらの最上階のスペースは、倉庫兼設備室として機能している。想像していたよりもかなり広いフロアだ。役場の書類は気軽に処分できない。その置き場所として重宝しているのだとか。
「昔の庁舎で使ってたロッカーを持ってきて使っているんだ。ほら、家でも屋根裏にとりあえず置くでしょ。ここも、そんな風にね(笑)ちゃんと2年に一度くらい整理整頓しているよ」


昔の戸籍帳などの貴重な書類からイベントの備品など、様々なものが置かれているが、それでも広大な空間にはまだまだ余裕がある。空間のゆとりは、心のゆとり。家を建てる際にも収納が大事なように、役場庁舎にも収納スペースはやっぱり大事なのだろう。

格式高い議場に心おどる
篠原さんによる、庁舎探検ツアー。普段はあまり立ち入らない2階と3階にも連れて行ってもらった。そこで今回初めて訪れたのが、町議会などが行われる議場だ。その格式の高さには、思わず声が漏れた。


基本的に議会は町民など様々な人に開かれていて、傍聴も可能。時には子ども議会が行われることもあるという。厳粛な空間に足を踏み入れるだけでも、なんだか気が引き締まる……

せっかくなので議長の椅子のところへ。恐れ多くて座ることはできなかったが、ちゃっかり触ってきた。いい椅子だ。ちなみに、部屋ごとに椅子や机なども異なるのだが、全て選定を行ったのだそう。庁舎を建てるって、大変なのだ。

庁舎の建設には様々な人が関わる。構想期間の調整も大変だったのではないですか、と篠原さんに聞くと、「うん、楽しかったね」という答えがすぐに返ってきた。
建物を建てるということは、セルフビルドでない限り、ひとりでできることではない。なおかつ、庁舎に関しては、町の中核をなすものを作り上げるのだから、様々な重積がのしかかる。
だけれども、そんなふうに総括しながら、終始気さくにお話を聞かせていただいた篠原さん。その一言が、今回の取材では一番印象に残っている。

とにかくたっぷり小海町役場の魅力を知ることができた今回の取材。やっぱり庁舎はおもしろい。個人的に、庁舎見学はライフワークになりそうな予感。
ぜひ役場を訪れた際には、細部まで見て、愛でてほしい。より町の魅力に気づくきっかけになるはずだ。
