土壌からディグる、ローカル野草案内──佐久穂町編

2026.07.16あさりゆうみ

土壌からディグる、ローカル野草案内──佐久穂町編

私は、食べられる野草を探すのが大好きだ。

かつて自給自足に近い生活をしていたころ、季節ごとの食べられる野草の名前や、その食べ方を夢中で学んだ。

私にとって道端の野草は、季節の移ろいを教えてくれる存在であり、そのたくましさに勇気をもらう存在であり、そしてちょっと大げさに言えば「たとえ生活に困っても、死ぬことはないなあ」と思わせてくれる、安心のよりどころでもあった。

そんな野草との付き合いを続けるなかでふと浮かんだのが、「地域ごとに、生える野草が少しずつ違うのはなぜだろう?」という問いだ。

私はこれまで、全国のいくつかの土地で暮らしてきた。暮らす場所が変わるたびに、出会う野草の顔ぶれも少しずつ変わる。ある土地ではおなじみだった野草が、別の土地ではほとんど見当たらないこともあれば、その逆もある。

野草たちはいったい、どうやって生える場所を決めているのだろう?

その手がかりを探して、今回は「土の性質」に注目してみることにした。

参考にしたのは、農研機構の「日本土壌インベントリー」。全国各地の土壌の情報を調べることができる、知る人ぞ知るマニアックなサイトだ。

このサイトをもとに、土壌分類というメガネをかけて、佐久穂町を見直してみる。そして、町内にある異なる3つの土壌のエリアを歩き、それぞれの場所にどんな野草が生えているのかを観察してみることにした。

佐久穂町の土を、ざっくり見てみると

まずは佐久穂町の土を、地図でざっと眺めてみよう。

下の地図は、「日本土壌インベントリー」で佐久穂町周辺の土壌分類を表示したもの。専門的にはもっと細かな分類があるけれど、ここでは大きく3つに分けて見ていく。茶色・ピンク色の場所は黒ボク土、緑色の場所は森林土、青色・水色の場所は水田土にあたる。

出典:農研機構「日本土壌インベントリー」より

おおまかに見ると、畑として使われている場所の周辺には黒ボク土、山に近い場所には森林土、川沿いには水田土が分布しているようだ。

ちなみに、日本土壌インベントリーは主に農地を対象とした情報のため、農業利用が難しい山地などは調査対象外となり、地図上では白く表示されている。

今回はこの地図をもとに、黒ボク土・森林土・水田土のエリアを歩いてみる。それぞれの場所には、はたしてどんな野草が生えているだろうか?

大日向:畑のまわりの黒ボク土エリア

まずやってきたのは、大日向。ここの土壌分類は「アロフェン質黒ボク土」で、火山灰に由来する黒っぽい土だ。黒ボク土は、ふかふかとして水もちがよく、有機物を多く含む土とされる。畑として使われることも多く、実際に歩いてみると、周辺には畑やハウスが点在していた。

ここで見つけた野草のうち、印象的だったものをピックアップしてみよう。

①イタドリ

まず目に入ったのが、イタドリだ。

イタドリといえば『呪術廻戦』の主人公を思い浮かべる人も多いかもしれないが、私にとってはおいしい天ぷらの食材である。

道沿いにまとまって生えていて、さながら「イタドリ畑」とでもいったところ。他のエリアでも見かけたが、ここまで群生していたのはこの場所だけだった。背丈がそろって低めだったので、定期的に草刈りされている場所なのかもしれない。

②ギシギシ

まわりの草よりもひときわ大きく葉を広げていたギシギシも目についた。

ギシギシ。なぜか漢字では「羊蹄」と書くところも含めて、個人的・一発で覚えられる野草名ランキングの上位ランカーだ。新芽や若葉をおひたしにすると美味しいらしいが、まだ食べたことはない。

他のエリアでも見かけたが、大日向のギシギシは特に葉が大きく、存在感があった。

③ギボウシ(ウルイ)

大日向エリアだけで見かけたのが、ギボウシ(だと思われる草)だ。

ギボウシの若芽は「ウルイ」と呼ばれ、おひたしにするとおいしい。

ただし、似ている有毒植物もあるので、食べる際には慎重な見分けが必要。私も食べたことはあるけれど、野草に詳しい人が採ってきたものをいただいた。

ギボウシは、どちらかというと日陰を好む植物らしい。実際、この子が生えていたのは、イタドリやギシギシがいたような明るい場所ではなく、少し日陰になっている場所だった。

Field Note #1|黒ボク土エリア

大日向の黒ボク土エリアは、草の勢いを感じる場所だった。イタドリもギシギシも、明るい場所でぐんぐん育っていた。

畑のまわりや道沿いは、草刈りや耕作によって人の手が入るぶん、森のように暗く閉じていくことは少ない。だからこそ、日当たりのよい場所を好み、刈られてもすぐに伸びてくるような野草が目立ちやすいのかもしれない。

一方で、少し日陰になった場所にはギボウシも生えていた。同じ土壌でも、日当たりのよしあしで生えている草は変わる。ギボウシから、そんなことを教えてもらった。

余地:山ぎわの森林土エリア

続いてやってきたのは、余地。ここの土壌分類は「湿性褐色森林土」。名前の通り、森林や山ぎわに多く、落ち葉が積もるしっとりとした環境で育まれる土とのこと。

実際に歩いてみると、このエリアはまさに山の入り口という雰囲気だった。道の脇には大きな木々が生え、足元には落ち葉が堆積している。黒ボク土エリアと比べると、木々による陰も多い。

ここでも、見つけた野草をいくつか紹介してみよう。

①シダ植物

森林土エリアでまず目についたのは、シダの仲間。大小さまざまなシダ植物が、落ち葉のあいだから葉を広げていた。

シダといえば、私にとってはやっぱりワラビ、ゼンマイ、コゴミ。今年も天ぷらやおひたしにして、しっかり楽しませてもらった。けれど、食べごろの季節を過ぎ、葉がすっかり開いてしまうと話は別だ。目の前にいるのが誰なのか、私にはもうよくわからない。

他のエリアでもシダ植物は見かけたけれど、森林土エリアのほうが種類も多く、どこかワイルドな雰囲気のものが多かった。

②カキドオシ

地面を這うように広がっていた丸い葉っぱの草は、おそらくカキドオシだ。

私にとってカキドオシは、おいしいお茶。独特の香りはあるけれど、クセが強すぎず飲みやすい。長野に引っ越してきてからは一度も出会えていなかったので、「あなたはここにいたのね!」と嬉しくなった。

思い返せば、これまでカキドオシに出会ってきたのも、少し森っぽい場所だった気がする。今回森林土エリアで見つけたのも、なんだかしっくりきた。

③ミツバ

私の大好きな、ミツバらしき草も見つけた。

スーパーで売られているミツバは水耕栽培のものが多いが、土で育ったミツバは香りの強さがまったく違う。だから私は、野生のミツバが大好きだ。

今回見つけたミツバは、落ち葉の間からぽつんと顔を出していた。黒ボク土エリアの草のように一面に広がるのではなく、積もった落ち葉の隙間から、ぽつり、ぽつりと顔を出す。こうした生え方も、森林土エリアの特徴なのかもしれない。

Field Note #2|森林土エリア

余地の森林土エリアは、大日向の黒ボク土エリアとは全然違う雰囲気があった。

黒ボク土エリアでは、明るい日差しのもと、草たちが上へ横へと勢いよく伸びていた。一方森林土エリアでは、積もった落ち葉の隙間から、草が点々と現れる。木陰になっている場所も多く、あたりには森らしい暗さがあった。

土の違いは、その場所全体の空気感にもつながっているのかもしれないなあと思う。

海瀬:川沿いの水田土エリア

最後にやってきたのは、海瀬。このあたりの土壌分類は「低地水田土」。川沿いや低い場所に分布し、田んぼとして使われてきた土地によく見られる土らしい。

歩いてみると、水路や畦など、水田まわりらしい風景が続く。とはいえ、じめじめと湿っているというよりは、日当たりがよくカラッと乾いた印象の場所が多かった。

例によって、見つけた野草をいくつか紹介してみよう。

① ヨモギ

印象的だったのが、ヨモギだ。他のエリアにも生えていたけれど、ここでは特に、日差しを浴びて立派に育っているものが多かった。

ヨモギといえば、私にとってはやっぱりヨモギ茶だ。ふつうに乾かして飲むのもいいけれど、炒ると香ばしさが加わって、それもまたおいしい。

ヨモギで草餅をつくりたい、と何年も思っているのに、まだ一度もつくれていない。春になるたびに思い出して、そしてまた、気づいたら春が終わっている。

② スギナ

水路の脇には、スギナもたくさん生えていた。びっしり、まっすぐ、どこまでもスギナ。私は勝手に、この道を「スギナロード」と名付けた。

私はスギナがけっこう好きだ。ただ、地下茎でどんどん増えるスギナは、畑では厄介な雑草として扱われがちなので、農家さんの前では声を大にしては言いづらい。

乾かしてミルサーで粉末にすれば、抹茶のように飲めるし、お菓子づくりにも使える。塩と合わせて、ハーブソルトのようにしてもおいしい。スギナになる前のツクシも、卵とじや佃煮にすればそれだけで十分な一品になる、大変ありがたい存在だ。

③ シロツメクサ/アカツメクサ(レッドクローバー)

シロツメクサやアカツメクサも、あちこちで見かけた。

あまりに身近ですっかり忘れていたけれど、以前、知り合いにアカツメクサのハーブティーを飲ませてもらったことをふと思い出す。今度は自分でも、お茶にして飲んでみよう。

背の低いこの草たちが元気に育っているのは、定期的に草刈りが行われ、地面の近くまで光が届いている証拠だと言えるだろうか?

Field Note #3|水田土エリア

水田土エリアで見かけたのは、どこでも出会えるような身近な草が多かった。だから正直なところ、「水田土だからこの草が生えている」とまでは言えないと思う。

ただ、今回歩いた場所の多くは、田んぼや農道として人の手が入り続けている場所だった。草が刈られることで、あたりは明るく開けた状態に保たれている。

ここで見かけた草たちは、土そのものよりも、そうした環境と相性がよかったのかもしれない。そういう意味では、黒ボク土エリアとも似た雰囲気を感じた。

「土壌散歩」のすゝめ

3つの土壌を歩いてみてわかったのは、野草の世界は、土の種類だけでは語りきれないんだなあということだった。

正直にいうと、当初はもっとわかりやすい結果を期待していた。黒ボク土にはこの草、森林土にはこの草、水田土にはこの草──そんなふうに、土壌ごとの違いがはっきり見えることを。

けれど実際には、エリアをまたいで見かける草もあり、同じ土壌の中でも、日なたと日陰では違う草が顔を出していた。

考えてみれば、人が住む場所を決めるときだって、理由は一つではない。仕事、人間関係、気候、なんとなくの居心地。いくつもの条件が絡まり合って、「ここにしよう」が決まっていく。野草たちも、もしかしたら同じなのかもしれない。

野草をハントする筆者

それでも、足元の土を意識して歩く町は、思っていた以上におもしろかった。なぜあちらには畑が多く、こちらには田んぼが広がっているのか。そんな風景の成り立ちも、土を手がかりに考察できるのかもしれない。

土壌インベントリーを片手に歩く「土壌散歩」。また別の場所でも試してみたくなった。